岡山地方裁判所 昭和26年(行)9号 判決
原告 小野小市郎
被告 岡山県知事
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告が原告に対し昭和二十三年七月十日附売渡通知書によつてした、別紙目録記載の農地に対する売渡処分を取消す旨の、被告が原告に対する昭和二十六年五月三十日附岡山県達第一一六号によつてした、取消処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、被告は原告に対し、自作農創設特別措置法第二十条に基く昭和二十三年七月十日附、同月十四日交付の売渡通知書によつて、別紙目録記載の農地の売渡処分をしたのであるが、その後被告は原告に対する昭和二十六年五月三十日附、同年六月六日交付の岡山県達第一一六号によつて、右売渡処分を取消す旨の行政処分をした。しかしながら、右取消の行政処分は何等正当事由によらない違法処分であるので、その取消を求めるため本訴に及んだと述べ、
右取消処分の正当事由に関する被告の主張に対し、その主要事実中、被告がした右売渡処分は、その売渡に係る別紙目録記載の農地が、政府において自作農創設特別措置法第三条第五項第四号によつて買収した農地であること、原告が右農地においてその買収の時期たる昭和二十二年十二月二日当時耕作の業務を営む小作農であると認められたこと及び原告が同法第十七条に従い該農地の買受申込をしたことによつて、同法所定の売渡手続を経てなされたものであることは認めるがその余の事実は否認すると述べ、仮に右売渡処分に被告主張のような瑕疵があつたとしても、これを違法とする本件取消処分は該売渡処分によつて取得した原告の本件農地に対する所有権をその売渡手続の完了後約三年を経過して喪失させるものであつて、手続の安定性、経済秩序維持の観点からしても違法であり、他にこれを取消すべき公益上の必要性がない本件においては許されないものであると述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として、被告が原告主張のとおり、その主張の売渡処分並にこれが取消処分をした事実は認めると述べ、
右取消処分の正当事由として、被告がした右売渡処分は、その売渡に係る別紙目録記載の農地が、政府において自作農創設特別措置法第三条第五項第四号によつて買収した農地であること、原告が右農地においてその買収の時期である昭和二十二年十二月二日当時、耕作の業務を営む小作農であると認められたこと及び原告が同法第十七条に従い該農地の買受申込をしたことによつて、同法所定の売渡手続を経てなされたものであるがその後調査の結果、原告は右農地において耕作の業務を営んだ事実はないこと、被告において原告が右農地で耕作の業務を営むものと認めたのは、その旨の原告の主張により誤信したものであることが判明し、原告が右農地において耕作の業務を営む小作農であることを前提とした、前記売渡処分は、売渡の相手方を定めた同法第十六条同法施行令第十七条に反する違法処分と認むべきであるからこれが取消の正当事由があるものであると述べた。(立証省略)
三、理 由
被告が原告に対し、自作農創設特別措置法第二十条に基く昭和二十三年七月十日附同月十四日交付の売渡通知書によつて、別紙目録記載の農地の売渡処分をしたこと、右売渡処分は、その売渡に係る農地が、政府において自作農創設特別措置法第三条第五項第四号によつて買収した農地であること、原告が右農地においてその買収の時期である昭和二十二年十二月二日当時耕作の業務を営む小作農であつたと認められたこと及び原告が同法第十七条に従い該農地の買受申込をしたことによつて、同法所定の売渡手続を経てなされたものであること、その後被告が原告に対する昭和二十六年五月三十日附同年六月六日交付の岡山県達第一一六号によつて右売渡処分を取消す旨の行政処分をしたことはいずれも当事者間に争いがない。
しかして、証人山近四郎、難波徳太郎の各証言に本件口頭弁論の全趣旨を綜合すると、右売渡に係る農地は訴外山近四郎が原告より転借し、昭和二十年六月二十九日以降現在に至るまでこれによつて耕作の業務を営んでおり、その間原告が右農地において耕作の業務を営んだ事実のないことを認めるに十分であり、右認定に反する原告本人の供述は措信し難く、その他これを左右するに足る証拠はない。従つて原告が右農地において耕作の業務を営む小作農であることを前提とした前記売渡処分は、売渡の相手方を定めた同法第十六条同法施行令第十七条に反する違法処分であるから、被告がこれに対する本件取消処分に出でたのは洵に正当である。原告は仮に右売渡処分に被告主張のような瑕疵があつたとしても、これを違法とする本件取消処分は、該売渡処分によつて取得した原告の本件農地に対する所有権をその売渡手続の完了後約三年を経て喪失させるものであつて、手続の安定性、経済秩序維持の観点からしても違法であり、他にこれを取消すべき公益上の必要性がない本件においては、許されないものであると主張するけれども、買収農地の売渡の相手方については、自作農創設特別措置法によつて詳細に規定せられ、公益上同法によりその厳格な適用が企図せられておるところである。従つてその選定に関する売渡処分の違法は、たとえその取消処分が売渡手続の完了後約三年を経てなされ、被売渡人に対し売渡処分によつて得た既得の権利を失わしめることゝなり、一面売渡手続の安定性を害するとゝもに、経済秩序の維持に反するという、好ましくない事態を生ずる結果となるとしても、叙上売渡の相手方選定に関し、自作農創設特別法が企図しているより重大な公益上の必要性に鑑みるときは、かゝる場合処分庁がするその取消処分はこれを是認せざるを得ないものと解するのを相当とする。よつて爾余の争点に関する判断をまつまでもなく右主張は採用しない。
しからば叙上被告のした本件取消処分を違法とし、その取消を求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 井上開了 辻川利正 富田善哉)
(目録省略)